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アメリカの教育改革 ~マグネットスクールの活動 [教育政策と人的資源]

 アメリカの初等中等教育(わかりやすく言えば義務教育)は、州の管理下にある学校区によって地方分権的に運営されている。学校区には州のもつ教育行政の権限が徹底的に移譲されており、とくに財産税(日本の固定資産税)の課税権も移譲されており、これが各学校区の自主財源としての教育費となっている。
 ところが、地方分権で運営されるアメリカの教育行政であるが、教育水準(学力)の向上となると、州や連邦政府(国)が実施する統一テストを導入し教育改革を図るなど、中央集権的な側面も多く見られる。

 私自身、シカゴ市学校区の財政分析を事例研究としてここ数年行っているが、上述のことに関連して興味深いのは、同学校区(教育委員会)が管理運営する通常の公立学校のほかに、数学や科学といった理科系科目、さらに芸術・音楽に重点を置く公立学校も設置していることである。それが、マグネットスクールMagnet School、と呼ばれる公立学校である。最近では、スペイン語、中国語をはじめ、日本語、ドイツ語、フランス語、ポルトガル語など第2外国語を相当本格的に学ばせる学校も増えている。いわゆる「エリート学校」として認知されるものであって、州はもちろん、連邦政府も積極的に財政補助している。

 マグネットスクールは、その字の如しである。学校区の縛りを越えて、広く優秀な生徒を学校区内外から「磁石」のように呼び寄せ、人種に関係なく、有能であれば誰でも入学許可を与えるという点に特徴がある。日本も特色ある学校づくりや中高一貫などが叫ばれているが、これはそうした教育改革の源流をなすものである。そうした教育改革にあっては、分権国家アメリカでも、中央集権的に改革を実施している。

 最後に、シカゴ市学校区にあるマグネットスクールに視察、インタビューしてきた時の画像がありますので、その一部をお見せします。今回視察したのはシカゴ都心部にあるWhitney M. Young Magnet High Schoolという公立高校です。
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校舎のエントランスに入ると、表彰状が所狭しと掲げられている。
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ちょうど生徒たちの演劇の整理券が父兄達によって配られていた。
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演劇のメインステージ。音響、ステージ照明など機材・設備は相当完備されている。
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演劇のシナリオから管理運営まで全て生徒が行う。ちょうど直前リハーサルの最中で、リーダーの出演者に対する声掛けが実に上手だった。

アメリカの生涯学習、社会人の学び直し [教育政策と人的資源]

 先月のアメリカ出張ではワシントンやシカゴを訪問したが、シカゴでは、シカゴ市が設置運営するコミュニティカレッジを訪問し、最近のアメリカの成人教育、職業教育、継続教育の現場を見てきた。

シカゴ市立マルコムエックスカレッジのエントランスの様子。
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 アメリカの初等中等教育、高等教育は専門研究分野の一つであるが、今回訪問したコミュニティカレッジは、その両者をカバーする教育機能を果たしている点で、非常に興味深い。アメリカの教育政策や教育改革を見る眼は、一元的ではないが、1990年代以後は、特に経済的自立を促す政策へと全体的に移行してきている。それは、クリントン政権期の1996年福祉改革が断行されたことで、貧困層を含めて自助努力を促す福祉政策が公平であり、健全であるとの認識の高まりであり、その認識が教育政策にも反映されている。

 これらの判断のすべては州による。福祉改革では、州の福祉給付の権限を一層強化し、とにかく州が独自に貧困層の経済的自立(Welfare to Work)を促すプログラムを構築し、運用している。イリノイ州を含む中西部は民主党的なリベラルな政治土壌で知られるが、それでも個々人の自助努力を促す福祉給付の方向に舵取りされている。

 実はコミュニティカレッジは、その自助努力、つまり就労促進を実現する職業教育等を提供する、最も重要な教育機関と化している。今回コミュニティカレッジを訪問、調査した理由はそこにある。


カレッジ内1階のコンピューティング室。学生は宿題をやっている様子。
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 成人教育学部学部長と30分ほどディスカッションをしたが、彼曰く、今後は一層、アメリカ社会では経済のグローバル化に伴い、意欲のある人間と、そうでない人間との差が、そのまま経済格差となって、都市部の貧困など内政問題が先鋭化するであろう、とのことであった。

図書館の様子。
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アメリカのコミュニティカレッジでの教育プログラムは、福祉や貧困という経済問題とのリンケージを一層強めている。そうした貧困対策も視野に入れた都市部のパターンと、例えば北東部州のある富裕地域で視察したような、豊かな財源を最先端IT教育機器の購入に当てた初等中等教育パターンとは、まさに対照的であり、つくづくアメリカの教育は多様であると感じた。

日本の教育改革 「学校図書館の活用」 (その2) [教育政策と人的資源]

いよいよ山形県鶴岡市立朝暘第一小学校に入って「学校図書活用型」のモデル授業を参観するときが来ました。まず、参観する前に校長室で校長、教頭先生より、授業の意義や目的、見所などについてレクチャーを受ける。ちなみに校長室は玄関を入ってすぐ正面にある。通常、「校長室」と言えば奥まったところにある印象だが、ここでは違う。登校した全ての生徒が校長室の前を通過するようになっている。

 実は、朝暘第一小学校は1時間目が始まる前に、生徒が図書館へ行き「本を借りる」という行動から始まる。いうなれば、1時間目が始まる前の、0時間目の授業のような感じである。生徒は登校するとまず本を借りる(触れる)という習慣を身につけている。

朝暘第一小学校の中核的存在である学校図書館。その名も「致道図書館」。
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学校図書館内の様子。生徒は本を借り終え、ほぼ教室に戻ったところ。他の視察者もいます。
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いざ、モデル授業が開始。
今回のモデル授業は1、2年生だったが、この低学年に対しては「読み聞かせ」というのが授業の基本方針。教員(読み聞かせのパートタイムスタッフもいる)が図書館の本を「教材」にして生徒の前で読み聞かせるのである。特に印象に残ったのは、教員だけでなく、生徒にも、「読み聞かせ」をさせている点である。

 さて、その生徒による「読み聞かせ」の様子を黙って見ていると、聞いている側の生徒は、読み手の生徒を「評価」しているのである。特に工夫があるなと思ったのは、聞く側の生徒を何度も入れ替えることによって、読み手の生徒に上手く読むチャンスを何度も与えている点である。人間は誰しも、1回目よりも2回目、2回目よりも3回目が上達するわけであるが、それを「読み聞かせ」という形で、他者に読んで聞かせる、理解させる、という姿勢を身につけさせようとしている点である。こうした「読み聞かせ授業」は、緊張感漂う「教室」だけではなく、開放感のある「体育館」でも行われている。

 「○○君、もっと大きな声で・・・」という担任の先生の指導を素直に聞いて、弱気な感じの生徒も次第に声が大きくなり、読み方も上手になってくる。3回目、上手く読めた時に、私と目が合った子がいた。なぜ、私と目があったのか。その理由は何となくわかる。その理由とは、上手く読めて自信が沸いて、視察に来ている大人にも自分の能力を高く評価してほしいという思いが高まったからである。

 視察者がウロウロする中で読み聞かせをし、担任の先生に軽く注意されながらも、そこで腐らずに、意欲も燃やしたその子に感動した。恥をかいても、意欲を燃やして、能力を高めることのできる社会経済システムが必要だと、教育の現場から感じ取った。今回の視察の最大の収穫である。今後の研究に活かしたい。

 朝暘第一小学校の「読み聞かせ」教育は、財政力の強いアメリカの学校区でも力を入れている。生徒は大学院マスター修了の図書館専門教員やボランティアの話し方を自然に学んでいるが、それがいわゆる"Show and Tell"の教育手法の効果を高めている。学校図書館の存在意義は日米で大きいと感じた。

日本の教育改革 学校図書館の活用 [教育政策と人的資源]

「アメリカ教育財政」を中心に研究している自身にとって、日本の教育改革、教育現場の事情を肌で知る極めて貴重な現地視察の機会を得た。高鷲忠美先生からその視察のお誘いがあり、同行させていただいた。

視察したのは、山形県鶴岡市立朝暘第一小学校。
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鶴岡市。実は日本で初めて「学校給食制度」を導入したパイオニアとして、知る人ぞ知る地域。自身も、院生時代に、日本の教育財政史に関する論文を読んだことがあった。それだけに、今回の視察は意義深かった。

さて、この朝暘第一小学校は、「学校図書館の活用」で先端を行くモデル校であり、日本中から小学校の先生が視察に訪れるほど。外部の視察者を向かい入れての研究会が、年4回、定期的に実施されている。まさに「開かれた学校」の印象をもつ。学校図書館を学校経営の中核に据え、全教員がこの図書を授業に直接生かした「情報リテラシー教育」が確立されている。

「確立されている」といったが、常に、校長・教頭先生を中心に全教員がチェック&バランスを行い、研究会を通じて常に模索を続けている。これが、日本の教育改革の、まさに最先端だと感じた。

こうした画期的な教育改革を実施できる同小学校には、納得させられる歴史的背景があった。この朝暘第一小学校の前身は、鶴岡の藩校「致道館」なのである。この「致道館」は今でもしっかり保存されており、観光客は無料で中に入ってガイドの話を聞くこともできる。

最後に、その「致道館」の様子をご覧いただきます
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「致道館」の向かいにある鶴岡市役所。
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教員の方との研究会も終わり、庄内空港への帰路で、山形の夕焼けをみる。
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次回は、「小学校の内部編」です。


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