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コロンビア大学での大規模学生デモ(その3) [コロンビア大学の研究報告]

4月18日の本日、昨日に続いてコロンビア大学構内で大規模な学生デモが行われています。この度のイスラエルによるパレスチナ攻撃に対する抗議デモです。コロンビア大学では無許可でデモ活動を行ったなどの理由で100人以上の学生が逮捕され、Minouche Shafik学長は当該学生の停学処分を発表しました。パレスチナ解放問題だけでなく停学処分への抗議もデモの増幅要因になっているようです。

私はこの日、授業に参加するため午後2時に大学に到着しました。すでにNYPDの警戒態勢が敷かれており、ほとんどの大学の門が閉鎖されるなか、比較的小さい門から大学のIDカードを提示して入ることができました。

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報道カメラも多く来ており、騒然としております。

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授業終了後も学生デモは続いていました。アダムズNY市長は昨日の会見で、「学生には言論の自由がある。しかし平和的にデモを行ってほしい(デモ活動の事前手続を踏んでから実行してほしい)。」と述べていました。

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パレスチナをめぐるイスラエルの軍事行動、それに直接間接に関与するアメリカ(バイデン政権)、反ユダヤ主義の動向に対する有力大学(学長等)の言動や対応などがアメリカでは連日ニュースで報道されています。超大国アメリカが抱えるリアルな国際政治の反響が大学キャンパスで繰り広げられています。

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2024年4月 研究者紹介ページ公開(その2) [コロンビア大学の研究報告]

コロンビア大学の研究者紹介ページが公開されました。「分権型・市場型アメリカ教育財政の実証研究」をニューヨーク州、イリノイ州、テキサス州、ミシガン州等の事例分析を中心に共同研究者(Faculty Host)のAlex Bowers教授と進めます。

研究者紹介ページはこちらへ。

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コロンビア大学Bowers教授とは過去10年以上の付き合いで、アメリカ初等中等教育(義務教育含む)を運営する地方自治体である「学校区」(School District)が発行する地方債「一般財源保証債」(General Obligation Bond)の住民投票に関する学会セッションで知り合い今日に至ります。彼はミシガン州やテキサス州の事例分析の蓄積があり、私が蓄積してきたイリノイ州の事例分析との比較検討からスタートし、償還財源の確実性や信用力、そして住民投票の結果が学校資本投資や学力に与える影響等を共同で分析します。

Alex Bowers教授ページはこちらへ。

半導体や自動車産業等の製造業の新たな集積や人口増加による経済成長が著しいアメリカ南部諸州、特にテキサス州における地方財政にどのような特徴がみられるのか。なかでも人材育成の基礎を担う初等中等教育から研究開発を担う高等教育に至るまで総合的にその財政を捉え分析することは、アメリカ財政、アメリカ経済の実証研究としてたいへん意義深いです。超大国アメリカの力強いリアルな経済力と地方財政を足元から分析し、少しでも日本に示唆を供することができたら幸いです。

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2024年4月 コロンビア大学での研究生活スタート(その1) [コロンビア大学の研究報告]

2024年4月より米国コロンビア大学でサバティカルが始まりました。1年間の滞米生活です。先月3/26に米国に入国、その2日後から早速ワシントンDC、フィラデルフィア等での出張をこなし、4月2日以降、NYでの生活が始まりました。

研究会や資料整理など何度も通ったコロンビア大学ですがこの日は特別な感がありました。正門を入って左手に見える旧図書館棟も感慨深いものを感じました。

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さて4/9の本日はコロンビア大学「初出校日」。この数日前コロンビア大学の先生のご紹介により午前9:30よりコロンビア大学SIPAが主催するシンポジウム「The State of Child Care in New York City」に参加させていただきました。

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本シンポジウムはゲストに元大物政治家ヒラリー・クリントン氏を招いてパネリスト達がNY市の子育て政策の現状と課題についてディスカッションを行うものでした。

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クリントン氏の基調講演を踏まえ、主催大学の研究者やNY市議などが意見を述べ、そして最後にクリントン氏が全体総括を述べるという流れでした。

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パネルディスカッションの終盤では、地方財政つまりNY市の教育費が巨大都市のゆえに様々な成約の中で管理されている点、アメリカの子育て政策への支出水準が国際的にみて低いままである点が指摘され、高度分権社会アメリカにおける地方財政の役割の重要性、与えるインパクトの大きさを実感しました。一人のパネリストは、NY市の子育て政策が後進していると指摘した上で、日本の事例を紹介。日本では子育て支援体制が自治体と小学校との連携によりきめ細かく運営されており一定の評価や成果を得ていると言及し、フロア参加者から拍手も湧きました。アメリカから見ると日本の子育て政策が成果を出しているように見えるようですが、残念ながら日本では少子化が進行し続けている現実はなんとも皮肉で、政策評価や国際比較は容易なものではないと感じた「初出校日」でした。

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「アメリカ大統領選挙2024年」結果予測マップ [塙ゼミナールの研究活動]

2023年度最後のゼミ合宿を専修大学伊勢原セミナーハウスで行いました。最大の研究テーマは、11月5日にアメリカで実施される世界が注目する「アメリカ大統領選挙2024」の結果予測マップ作成、卒論構想、アメリカ都市開発の3点です。

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「大統領選挙2024プロジェクト」は後期のゼミ授業から蓄積しており、大統領選での争点や激戦州(swing states)を選定して集中的に議論を重ね、また労働省BLSの経済統計データ、PBS、ABC、CBS等のメディア、現地調査等を活用して総合的に判断を行いました。特にペンシルベニア州、ミシガン州、ウィスコンシン州、ジョージア州等の激戦州では見解が別れました。

そしてゼミ生が合宿で導き出した最終予測結果は、共和党296人民主党242、すなわち「トランプ勝利」というものです。予測マップがこちらです。

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今回想定した主な争点は①経済(雇用・賃金・物価)、②外交・軍事支援(ウクライナ、イスラエル、台湾)、③移民の3点でした。また勝敗を分ける投票セグメントは、①労働組合票(特にラストベルト地域の白人労働者層)、②女性票(特に郊外在住の既婚女性)、③無党派層(年齢層は広く分布)でした。なお、4年前の2020年選挙でも当時ゼミ生が予測マップを作成、本ブログで紹介しました(こちらへ)。その時は「バイデン勝利」を見事に推測しました。今回も4年前のゼミ生と同様、見事に予測は当たるのか。特に注目した激戦州での結果はどうなるか。11月の本選挙結果を一番楽しみにしているのは、もちろん合宿で頑張ったゼミ生です。

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東京大学 阿曽沼明裕先生をゲスト招致 [塙ゼミナールの研究活動]

新年、明けました。2024年の最初の塙ゼミは東京大学大学院教育学研究科の阿曽沼明裕教授をゲスト講師にお呼びし、「アメリカの大学・高等教育 ー歴史的文脈から―」と題されたご講義を拝聴しました。高等教育、科学研究・大学史に関する豊富なご見識に裏付けられたご講義でした。中世ヨーロッパに起源をもつ「大学」の歴史、そのアメリカへの影響、超大国アメリカを支える高等教育システムの組織的な特徴や意義について学びました。

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阿曽沼先生とは大学院博士課程の時分に遡ります。私が博士課程の院生の頃、阿曽沼先生は筑波大学・大学研究センターの助手でおられ、以後、学問領域は異なりますが、「アメリカ高等教育」の接点で色々とお世話になり、また「研究大学」の組織や財政に関するご論文を拝読してきました。ようやくにして阿曽沼先生を自分の講義のゲストにお呼びするのは今回が初とあって、まさに時の流れを感じる感慨深い90分でもありました。ゼミ生の中にはアメリカ高等教育を卒論研究テーマとしており、彼らにもたいへん意義深い時間のようでした。ゼミ生には学内に留まらず外部から刺激を受け、留学や現地調査も含めて他流試合を経験し、成長してもらえたら本望です。

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国立大学の経済効果 [財政問題と地方分権]

コロナ禍前の2019年より開始した国立大学協会の受託研究「国立大学の経済効果に関する調査研究」を終えることができました。共同研究者の川出真清・日本大学経済学部教授とともに、160名の国立大学の学長や職員の方々が参加されるなか、最終の研究成果を報告させていただきました。今後に残された課題も含め、本研究は重要なテーマであることが、ご参加された先生方からのご質問やコメントから再認識することができました。

「国立大学協会News」はこちらへ。

戦後日本の基礎研究、研究者養成という国家経済の基幹を担ってきた国立大学の功績や貢献は計り知れないもので、アメリカに次ぎ世界第2位の経済大国までに復興・成長した原動力の一つが国立大学であることは広く日本国民が認める部分であろうと思います。それをどのように説明・実証するかは個々の研究領域や手法で異なりますが、本研究を通じて改めて「発見」したことは、全86校の国立大学のうち数の上で大半を占める「地方国立大学」「単科大学」の貢献や役割です。旧帝大の大学債や大学ファンドに代表される民間資金ファイナンスに目が向く一方で、地方国立大学が地元の都道府県や地方自治体(基礎自治体)に与える経済的・財政的関係(地方税収効果等)をもっと積極的に分析評価することにより、地方国立大学の存在意義を「国民」に説明できるという考え方を得ました。「国民」とは総称文言であって、その本質やリアリティは個々の都道府県民・市町村民にあり、地方が国を構成するという基本認識です。

「国立大学」とは何か、「国税」が投入されることの意味や意義をどう認識すべきか、東京も地方の一つでありながら人口や資本が東京に一極集中している現状、国立大学運営費交付金の配分をどう考え直すべきか、そして大学の学術研究・基礎研究は多額の資金を必要とする観点から誰がどのように負担すべきか、その際に教育機会均等に負の影響はないのか。課題は山積していますがこうした課題を得ることができたのも本研究の成果の一つです。

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宇都宮ライトライン [都市政策・モビリティ研究]

2023年8月26日、「宇都宮ライトレール」が開業した。路面電車としては実に「75年ぶり」の新規開業とのニュースを聞いて、驚きを隠せない。

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これは逆に言えば「75年間」もの間、路面電車が日本の都市交通から完全に軽視されてきたことを意味する。21世紀に入りほぼ四半世紀が経過する今日、世界の都市交通は急速に路面電車、バス、自転車(近年は電動スクーター)という低次交通モードを主役に位置づけた都市計画、都市再開発の方向へ大きくシフトしている。都市を改めて人間フレンドリーな居住空間に再編するムーブメントが確実に高まっている。

スペインのバルセロナ市は「スーパーブロック」と呼ばれる完全に車を排除した区域(ブロック)をダウンタウンにいくつも設置し都市空間の改良を講じており、自転車、バス、そして路面電車をその再編の主役を担う交通モードに位置づけている。

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また「クルマ社会」と言われるアメリカでもミルウォーキーなど人口50万前後の中規模都市では2010年以降、路面電車の整備、延伸を急速に進めている。デンバーは「バス専用レーン」をダウンタウンに設定して運賃無料でバスを運行し、都心部へのクルマの流入量を抑制している。世界の都市は急速に変化している。


そう考えると、「75年ぶり」という宇都宮ライトレール開業は、世界的トレンドからいかに日本が離れているかを考えさせられる。単に既存道路の中央レーンに路面電車を走らせるだけでは既存道路による輸送力増強に終わり、中長期的には社会的費用を増大させるリスクを生じる。今後の宇都宮ライトレールの都市計画・都市再開発とのダイナミックな政策リンケージが期待される。

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「イリノイ州議会「2016年危機」 ー高等教育における受益と債務ー」 [著書・論文]

この度、拙稿「イリノイ州議会「2016年危機」 ー高等教育における受益と債務ー」が専修大学社会科学研究所年報に掲載されました。ご笑覧ください。

「イリノイ州議会「2016年危機」ー高等教育における受益と債務ー」(全文PDF)はこちらへ。

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「空港アクセス」の財政学 ―シカゴオヘア空港を事例にして― [著書・論文]

このたび拙稿「空港アクセスの財政学 ―シカゴオヘア空港を事例にして―」が一般社団法人関西空港調査会編『KANSAI空港レビュー』2023年5月号に掲載されました。ご笑覧ください。

関西空港調査会『KANSAI空港レビュー』はこちら

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日本高等教育学会会長プロジェクト

日本高等教育学会では、会長プロジェクト「高等教育政策の研究」第7回研究会を下記日程により開催(オンライン開催・無料)します。政府は10兆円規模の「大学ファンド」を創設しましたが、その運用や国立大学への資源配分については未知です。果たして国立大学の財政や資金調達にどのような影響を与えるのか、一部の有力国立大学だけを資するものではないのか、国立大学の研究機能向上に寄与するのか。「大学ファンド」の現状と課題を、財政学の視点から考えます。


日時  2023年3月21日(火・祝) 10時~12時

講師  土居丈朗 慶應義塾大学経済学部教授 「財政学から見た大学ファンド」

司会  羽田貴史 東北大学・広島大学名誉教授

コメンテーター  塙武郎  専修大学経済学部教授


お申込みはこちらへ。3/16が締切です。参加対象は学会員限定となりますがご参加ください。参加人数に上限がありますのでお早めにお申し込みください。

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米航空3社の利益、コロナ前を上回る

米国のエアライン大手3社の利益(10~12月期)がコロナ前を上回って「稼ぐ力」を取り戻している。いち早く取り戻していた国内線に続き、国際線も取り戻したことが大きく貢献したようである。3社にとって国際線の「ドル箱路線」は欧州を結ぶ北大西洋路線であるが、コロナ禍の収束傾向を受けて渡航規制が緩和され需要が一気に回復したことが最大の要因とのことである。搭乗率が高まった反動で価格も上がっており、それが稼ぐ力の増強にいっそう貢献している。

一方、日本からアメリカへの太平洋路線(アジア路線)は需要回復がまだ鈍い。ユナイテッド航空の場合、旅客収入はコロナ前の24%少ない状況にとどまっている。アジア路線の回復に3社は期待を寄せているが、もう少し時間がかかる。アジア路線の回復は北大西洋路線と同様、法人向け需要つまり客単価の高いビジネス客が戻らない限り実現しないと思われるが、それがいつ頃のタイミングで戻るのか、どの程度がリモートに切り替わるのか、まだ不透明のようである。

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公開講座 [都市政策・モビリティ研究]

この度、専修大学大学院が主催する公開講座「企業の競争と国家・地域」において「アメリカの都市開発と交通マネジメント ーNYとシカゴの事例―」という論題で、講師を担当させていただきました。完全オンラインでありましたが、最後の質疑でたくさんの質問をいただきました。

当日の詳細はこちらをご覧ください。

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米国の中間選挙 2022年11月 [超大国アメリカの経済社会]

2022年11月8日、アメリカで中間選挙の投開票が行われている。

上院は拮抗、下院は共和党の勝利、知事も共和党の勢力拡大と、メディアは予測している。その予想の通りトランプ支持者の勢い、またはトランプ公認の立候補者の勢いが全米で目立っている。現時点では上院の最終結果はまだ出ていないが、もし上院も共和党が多数派となればバイデン政権の政策運営は厳しい局面を迎えると言われている。しかし、そうした「少数与党」という状況は過去アメリカ政治に多々見られたことであり、それ自体を深刻な問題だと捉えるのはおかしい。

問題の本質は、バイデン政権の残る2年間での議会との協調、特に「超党派」での政策形成や法案審議が機能するか否か、であろう。これが近年アメリカ政治の大きな論点である。分断政治の今日だからこそ超党派としての政策運営に期待が集まっている。日本との同盟関係、開かれたインド太平洋構想、対中貿易政策、ウクライナへの武器供与、物価高などの諸問題もその中で捉える必要があり、今後の日米経済の展望を模索すべきであろう。

特に「超党派」での政策運営を期待できるのは、過去の実績でみれば、教育政策、労働政策、産業政策の分野であろう。ただし学生ローンの債務整理に関する法案は前途多難で、今回の中間選挙で共和党が下院を奪還すれば一気に廃案となる公算が大きいと思われる。

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シリーズ「交通税を考える」(その1) [都市政策・モビリティ研究]

本シリーズ「交通税を考える」は、今後の地域公共交通のあり方をどのように再編すべきかを、地方財政と日米比較の観点から考えてみたい。

交通は、古くて新しい問題である。高速道路・新幹線・空港等への全国的・大規模な交通インフラ整備の時代は一巡した。今後は地域レベルでの交通インフラ整備や財源確保を考える時代である。本シリーズでは、そうした問題意識から地域公共交通、特にそれを支える「交通税」について検討したい。

2022年3月24日、滋賀県の税制審議会が「交通税」を本格的に検討しはじめたのは画期的である。審議会は「地域の公共交通機関を支えるには県民に新たな税負担を求める必要がある」として、「交通税」導入の答申案をまとめた。税金、それも「地方税」と言えば地域住民の反対や反感が予想されるが、しかし行政サービスがタイトに享受できるメリットが説明されれば、反対は軽減されうる。

「交通税」を考えるうえで、示唆に富むのがアメリカの事例である。「クルマ社会」と言われるアメリカでも「交通税」はすでに導入されている。それも半世紀前に遡る1974年に交通税の導入が決定され、今日まで運用されている。

大都市シカゴが典型例である。1974年、シカゴ大都圏を構成する1市6郡で「交通税」導入の是非をめぐる住民投票が実施された。その住民投票の結果が興味深い。都市部のシカゴ市だけが賛成多数となり、ほか郊外6郡はすべてクルマ社会を謳歌する住民が大半のため反対多数となり、都市と郊外の地域対立が露呈する形となった。結果、人口(つまり票数)の多いシカゴ市での賛成票が効いて、過半数ラインを僅差で上回り、「交通税」導入が決定したのである。こうして「交通税」をめぐる見解の相違が浮き彫りになったが、クルマ社会アメリカにとって画期的な進歩であると地元メディアは報じている。

拙稿(2010)で論じたように、注目すべきは「交通税」に反対する理由である。反対多数を占めた郊外6郡の人々はミドル層ないし富裕層であり、豊かで自由なクルマ社会、ライフスタイルを謳歌する人々である。彼らはガソリン税や売上税を多く負担している上に、さらに「交通税」を負担させられることに猛反発したのである。毎日クルマを利用する人間にとって交通税は不公平な税と考えたのも無理はない。

シリーズ・アメリカ・モデル経済社会<br> アメリカ・モデルとグローバル化〈2〉「小さな政府」と民間活用
交通モード選択は元来、自由である。また居住地域、通勤先、ライフスタイル、所得水準等は個人や家庭で異なる。現実にはそれらの諸要素による総合判断によって交通モードが選択されており、その意味で「交通税」導入には強力なコンセンサスを必要とする。問題なのは、クルマ(道路)以外にコストのかかる交通モードとしての電車、バス、路面電車等の多様な選択システムを提供する必要性だけでなく、メリットを住民に説明できるかどうかである。シカゴではその説明(説得)をする材料として交通税の「配分」に関する、ある工夫が講じられたのである。本シリーズ、次回はそのある工夫とは何かを含め、「交通税」について考える。

【参考文献】

・塙武郎(2022)「アメリカの都市郊外化と『交通カルチャー』の変容」、IATSS(国際交通安全学会)編『IATSS Review』第46巻第2号、130―138頁。(全文PDFはこちらへ

・塙武郎(2010)「アメリカ大都市の交通財政 ーニューヨーク・シカゴの事例研究―」(渋谷博史・塙武郎編著『アメリカ・モデルとグローバル化Ⅱ ―「小さな政府」と民間活用―』昭和堂。

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慶応義塾大学・加藤一誠教授をゲスト招聘 [塙ゼミナールの研究活動]

アメリカ経済・交通経済論がご専門である慶応義塾大学教授の加藤一誠先生をゲストにお呼びしました。2年間のコロナ禍で伸び伸びになって、ようやくにして実現しました。

加藤先生は「アメリカの航空と空港」という論題で50分ほどレクチャーして頂きました。その後、ゼミ生との質疑を通じて、じつに意義深く、贅沢な時間を過ごしました。

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アメリカの空港経営の「マインド」の本質に迫る分析や、その日米比較など、アメリカ経済を学ぶ塙ゼミ生にとって大いに刺激になりました。

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学会発表「イリノイ州議会『2016年危機』と州立大学レベニュー債」 [著書・論文]

日本地方財政学会第30回大会(2022年6月4、5日)が京都府立大学で対面で開催されます。私は5日の午前のセッション「地方債と地域金融」で報告します。私の報告タイトルは「イリノイ州議会『2016年危機』と州立大学レベニュー債」です。過去3年間の研究蓄積をまとめた形ですが、まだまだ課題山積です。しかし、久々の対面での学会発表なので、大いにアカデミックな空間を楽しみたいと思います。

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アメリカの銃乱射と雇用不安 [超大国アメリカの経済社会]

ここ数日、アメリカのニューヨーク州、ウィスコンシン州の各地で銃乱射事件が続発している。銃社会アメリカでは憲法でその所有の権利が保障されていることは知られているが、銃所有の憲法保障それ自体がアメリカの銃乱射事件のすべての原因かといえば、そうとも言えない。


では、もっと根本的な原因は何であろうか。それは、銃の「所有」から「使用」の段階に移行する人間のアルゴリズムに原因があり、更にその背景にある原因として、経済不安、雇用不安、将来不安という問題があり、それらを過激な対立思想に変質させているのが根深い人種差別やセグリゲーション(居住地区の分断)という構造的な問題である。実際アメリカでは20代から40代が銃乱射事件を起こしている。「所有」から「使用」に移行する人間のアルゴリズム研究とその要因分析が必要である。そうした研究が銃社会アメリカの「社会的制御」に資する発見を与える。その意味で、地域コミュニティ次元での経済政策・社会政策・貧困・再分配の研究は重要である。


もちろん「所有」の本源的目的は「使用」にある。しかし「使用」を前提に「所有」すると必ず暴発が起きる。これが銃社会アメリカの直面するジレンマである。権利の捉え方は個人で大いに異なり、多様である。多様社会アメリカは銃社会アメリカを複雑にしている。

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論文「超大国アメリカの地域経済の成長と構造 ―サウスカロライナ州の事例分析」 [著書・論文]

このたび、穆尭芊・新井洋史編著『大国のなかの地域経済 -アメリカ・中国・日本・EU・ロシア』(ERINA北東アジア研究叢書11、日本評論社、2022年)が発刊されました。


本書は、アメリカや中国をはじめとする大国の中規模都市・地域が、大都市圏やグローバル化する世界経済の中でいかに発展してきたのかという課題意識を共有しながら米中日欧露を比較検討します。日本評論社作成ポスター(下記)の利用により「特別価格」で購入できます。


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私は、第1章「超大国アメリカの地位経済の成長と構造 サウスカロライナ州の事例-」を担当しました。金融危機後におけるアメリカ南部、特にサウスカロライナ州チャールストン郡を中心とする地域経済の成長要因を、米国労働統計データ(BLS)を活用して分析しています。


「日本評論社」ウェブサイトはこちらへ。


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論文「アメリカの都市郊外化と『交通カルチャー』の変容」 [著書・論文]

この度、拙稿「アメリカの都市郊外化と交通カルチャーの変容」が公益財団法人国際交通安全学会(IATSS)の学会誌『IATSS Review』第46巻第2号、特集「交通の歴史と文化」に掲載されました。ご笑覧ください。この場を借りてレフェリーの先生方には心より御礼を申し上げます。

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「国際交通安全学会」(IATSS)は1974年にHondaの創業者である本田宗一郎、藤澤武夫およびHonda基金のもとに設立された、交通社会の課題や将来のあり方を学際的な観点から研究する学会で、交通に関する数多くの論文を編集した学会誌等を出版しています。


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論文「ニューヨークの公共交通モビリティとハドソンヤード再開発」 [著書・論文]

専修大学人文科学研究所『人文科学年報』第51号(2021年)に、拙稿「ニューヨークの公共交通モビリティとハドソンヤード再開発」が掲載されました。


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高層ビルの林立するニューヨーク市マンハッタン地区のほぼ中央に位置するハドソンヤード地区は、100年に一度といわれる大規模な都市再開発事業を進めています。本稿はそのハドソンヤード再開発事業の特徴として、既存の公共交通システムを基軸としたTOD(transit-Oriented Development)型の再開発手法の意義を整理しながら、地下鉄やバスだけでなく、小規模商店を中心とするコミュニティ経済や時間消費サービスと密接な関係をもつ徒歩や自転車という低次交通モビリティも積極的に組み込まれている点に着目し、その都市政策としての可能性や示唆を提示するものです。ご笑覧ください。

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日米・高等教育エンゲージメント研究(USJP HEES) [教育政策と人的資源]

2年前より「日米・高等教育エンゲージメント研究」(US-JP Higher Education Engagement Study; HEES)の、日本国側の諮問委員を務めています。


日米HEESとは、国際交流基金の内部に設けられた国際交流基金日米センター(CGP)の助成金により進められる日米共同による調査研究プロジェクトで、その目的は、日米の研究者が集まって、日米大学間の学生の語学留学を含めた人材・学術交流や各種パートナーシップを強化するために、その基礎的な研究調査、意見交換等を行うことです。アメリカ側は首都ワシントンに本部を置くACEAmerican Council on Education)が、日本側は国公私立大学団体国際交流担当委員長協議会(JACUIE)がそれぞれ取りまとめています。


もちろんコロナ禍の現在、オンラインで会議が行われています。写真は、コロナ前にワシントンDCで開催された第1回の日米会議の際のものです。


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ワシントンDCの中心部デュポン・サークル地区にある、ACEが入っているビル。


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過去2年間の主な研究成果は、20172020年における日米大学間での留学実績、研究者交流等に関する膨大なデータの整理および視覚化です。次の「研究の結論」リンクに進むと、「物理的交流」「研究」「学位課程」等の5分野別にデータを視覚化できますので、ご参照ください。


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日米大学間の交流に関する膨大かつ断片的なデータの整理は容易ではなく、今後の課題も多く見つかりました。近年多くの国際機関では統計データの視角化が進んでおり、統計データの方法論・収集方法もグローバル化しており、その世界トレンドに沿うことで、わが国の高等教育のデータ国際比較が可能となる側面が多々あります。今回の日米HEESの諮問委員を務め、そうした貴重なことを学んでおります。


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ANA総研・立教大学の西村剛氏 [塙ゼミナールの研究活動]

塙ゼミは、しばしばゲスト講師をお招きしてアメリカ経済・都市政策の研究をよりリアルに深めています。

今回のゲスト講師は、ANA総合研究所主席研究員、兼、立教大学大学院特任教授の西村剛氏で、「新型コロナウィルス直撃の世界の航空産業 ―日本のLCCの行方を展望する」をテーマに講義をお願いしました。

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新型コロナによって世界の国際線の旅客はほとんどストップ状態ですが、現在、世界のドル箱路線と言われる「北大西洋路線」から、徐々にですが、動き始めています。しかしデルタ株の猛威で感染者がアメリカ等でも再拡大していることもあり、目下、警戒が広がっています。

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一方、コロナ禍で航空需要が最も速く回復したのが北米の貨物で、特に2020年6月以降はコロナ以前より貨物需要が高まっています。北米に次いで回復したのが、中東アジア、ヨーロッパ、アジア太平洋です。南米のみ、現在もコロナ以前より下回って推移しています。


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最後に、西村氏にゼミ生から質問がたくさん出され、貴重な時間を過ごしました。コロナ禍でゲスト講師との懇親会ができず残念でしたが、次に期待したいと思います。

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塙ゼミ2021年度スタート [塙ゼミナールの研究活動]

塙ゼミ、2021年度がスタートしました。数名が就活等で欠席しましたが、みな元気に顔を出してくれました。就活中の四年生のうち、数名から、内定の知らせもいただきました。嬉しい限りです。今年度もパンデミックの中での船出となりました。濃霧と荒波の中でも着々とスキルを身に着けてほしいと願うばかりです。知識と調査と経験、そして最後は決断と行動で、この難局を打ち勝ってほしいです。そこで塙ゼミは、今年度より難局を乗り越えるべく全ゼミ生の投票により「塙ゼミキャッチコピー2021」を決定しました。そして栄えある2021年度の初代キャッチは以下の通り決定しました。

Studying for KAIZEN. KAIZEN for Studying

アイデアを出した3年ゼミ生によると「研究を行うことでカイゼンが可能になり、カイゼンを行うことで次の研究に進む事ができる。この関係性は常に塙ゼミにおいて大切にされていることであり、KAIZENの使用が塙ゼミらしさを際立たせている。」とのことです。このキャッチの通り、みなさん今年度は大いにカイゼンして成長してください。

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国立大学の「大学債」を考える② -米国のレベニュー債から学ぶ- [著書・論文]

この度、専修大学社会科学研究所『社会科学年報』第55号に、拙稿「わが国の国立大学法人の『大学債』の償還財源と機会均等 ―アメリカ州立大学のレベニュー債に学ぶ―」が掲載されました。


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本稿は、アメリカの州立大学が発行する「大学債」がレベニュー債として発行される中で、授業料が唯一最大の償還財源とされることから、高等教育予算編成過程において学生はサービスの「受益者」であると同時に「債務者」でもあるという構造に注目し、わが国の国立大学の「大学債」への示唆を論じています。

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アメリカの研究開発資金の源泉と配分 [著書・論文]

このたび、明治大学国際武器移転史研究所編『国際武器移転史』第11号(2021年1月発行)に、拙稿「アメリカの研究開発資金の源泉と配分 ー大学政策、技術移転への影響」が掲載されました。NSFの最新データを使って戦後からトランプ政権のアメリカにおける研究開発資金の構造変化と大学への諸影響を、特許政策や事例分析を交えて検討しました。ご笑覧ください。



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国立大学の「大学債」を考える① -償還財源- [財政問題と地方分権]

2020年10月、東京大学は国立大学として初となる「大学債」(FSI債)を発行した。発行額200億円、償還期間は40年、利率は0.823%、政府保証は無し、というスキームである。

国立大学が法人化された2004年から16年が経過した。ようやく国立大学が単独で借入れ、市場から資金調達を行う時代に入った。これは国立大学財政史の観点から画期的であると同時に、市場から資金調達を行う以上国立大学自らがリスクを負うことを意味する。ここでは国立大学の「大学債」をテーマに様々な視点やアメリカの事例を引きながら検討してみたい。なおアメリカにおける州立大学の大学債(レベニュー債)は、塙 武郎(2019)アメリカ高等教育財政とレベニュー債  ―イリノイ大学システムを事例に―」を参照されたい。

まず第1回は、「償還財源」について考える。債券発行により借入れを行うと、当然ながら発行体は元利払いを義務付けられ、また発行体すなわち国立大学の財務状況等に裏付けられた信用が重要となる。債券の信用に対する評価は格付会社が行い、投資家をはじめとする証券市場の側がその格付情報をもとに債券購入の是非を最終的に判断する。一般に信用力の低い債券は「ジャンクボンド」と呼ばれ、紙くず(junk)同然と評価される厳しい世界である。公共性を有する国立大学がこうした厳しい証券市場の評価に耐えうる財政力、つまり償還財源の確実性とガバナンス体制を有するかが今後、本格的に問われることになる。

格付会社や市場の側の判断は国立大学の財務状況、すなわち収入と支出の全体構造について分析評価し、特に収入面では個々の収入項目の性質や安定性についてチェックする。とりわけ、どの収入を「償還財源」に位置づけるかが直接的にチェックされる。償還財源は毎年度の予算編成過程において、最優先に返済原資に充てられる財源として縛られるので、一定の確実性と規模が償還財源に求められる。国立大学の経常収入において一定の確実性と規模を有する収入とは何か。この点がポイントになる。

現在、東京大学の大学債(FSI債)の償還財源は、「文部科学省令第 9 条の 4 に定める業務上の余裕金として、運用 を目的とする寄附金、国立大学法人等の有する動産・不動産収入、国立大学法人等の研究成果の活用等に関する業務対価、出資に対する配当金及び有価証券の運用収入など国立大学法人等全体の収入を充てる」としている(東京大学法人(2020)「債券内容説明書」第二部法人情報、14頁より抜粋)。つまり寄付金、資産収入、特許等収入、運用収入の4つの収入を償還財源として明記している。これら4つの収入は国立大学の「主要財源」というよりも「その他収入」と分類される「非主要財源」であり、確実性・安定性の観点からいえば高い信用力を獲得できるものとは言い切れない。むしろ寄付金や資産収入といった非主要財源を償還財源に充てざるをえない事情と現行制度の限界という問題が背景にあるように思われる。

今後こうした「非主要財源」での大学債の発行スキームが前例となれば、財政面で余力や規模を有する大規模研究大学としての国立大学のみが発行可能となることも予想される。大きな前進、画期的な前進といえる東京大学の大学債であるが、地方小規模単科大学に代表される国立大学は同様スキームでの発行はおよそ困難であろう。この点が今後の大きな課題となろう。

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アメリカの都市政策と自転車 [都市政策・モビリティ研究]

アメリカの巨大都市ニューヨーク市は「自転車」(Bike)に重きを置いている。「クルマ社会」といわれるアメリカ社会ではおよそ想像できないが、しかし事実である。ニューヨーク市交通局は「CYCLING IN THE CITY; Cycling Trends in NYC」というシリーズ報告書を毎年発表し、市内の自転車の利用状況等について統計データを使いながらわかやすく解説している。

最新の2020年版の報告書によると、2005年から2018年の主要都市における自転車通勤者数(Bicycle Commuters)は、ニューヨーク市が圧倒的首位を走っている。2013年から2018年は35%の増加率で、全米平均16%の2倍以上である。そのほかロサンゼルス市、ポートランド市、シカゴ市、サンフランシスコ市、シアトル市等は特に際立った増加トレンドは見られない。直近ではシカゴ市とポートランド市の微増傾向があり、なかでもポートランド市は人口規模でいえば自転車通勤者数が多いことが注目に値する。

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また同報告書は、ニューヨーク市の中枢「マンハッタン地区」の中心エリアであるミッドタウンに位置する50丁目を定点ポイントとして、そこを南北に通過する自転車台数をカウントした統計データを公表している。平日の朝7時から夜7時まで対象とし、1980年以来ずっと継続している。上記のグラフと整合して、2014年から2019年の5年間の増加率が上がっており、27%増と発表している。

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自転車通勤者の推移は、ニューヨーク市を構成する5地区別でも確認できる。マンハッタン地区(黄色)とブルックリン地区(緑色)が大半を占めており、2018年現在、両者とも2万人強に到達している。マンハッタン地区は2013年以降に増加トレンドがみられる。

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加えて、自転車利用者は、予想以上の広範囲でのモービリティを形成することも報告されている。つまりマンハッタン地区の内部だけでなく、ブルックリン地区とクィーンズ地区とのモービリティ選択に貢献している。マンハッタン地区と隣接2地区とを結ぶQueensboro Bridge(緑色)、Williamsburg Bridge(赤色)、Manhattan Bridge(黄色)、Brooklyn Bridge(水色)の4つの橋の自転車利用者数は、2003年以降に急増している。直近2017年より若干の減少がみられるが、市交通局はこの要因は、City Bike(バイクシェアサービス)の普及とイーストリバーでのフェリー運航開業によるものと分析している。とはいえイーストリバーを通過するバイカーが急増していることは事実である。 

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最後に、自転車利用者の性別でみたデータは、今後の課題を提示している。2018年現在の自転車利用者は7対3で男性が多い。ただし2015年から2018年でみると、女性の利用者は4倍に増加している。またCity Bikeの利用者(年間490万人)の24%、つまり4人に1人が女性であることに言及し、女性利用者の増加の大きな要因であると分析している。なお市交通局の別の報告書によれば自転車利用を消極的に考える最大の理由の一つに「危険」を挙げており、東京都に比べれば圧倒的に自転車専用レーンを整備しているニューヨーク市でも、「危険」を理由に挙げている点は興味深い。

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さらに興味深いのは、自転車利用と教育歴には相関性がみられるという指摘である。そもそも交通モード選択と教育歴における相関性に着眼するという点に、アメリカ的な方法論や公共政策の特徴が出ている。自転車利用者には比較的「大卒以上」が多いと言及している。

新型コロナ時代のリスク回避の移動手段としても、自転車への注目は高まっている。もちろん自転車は移動距離の限界もある。しかし、テレワークの普及や職住接近のまちづくりを推進することで解消される部分もあり、自転車の社会的地位を再評価することは大きな可能性を秘めている。今後日本の立地適正化計画のコンパクト&ネットワークを含め、都市政策に示唆を供するものである。

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「アメリカ大統領選挙2020年」結果予測マップ [塙ゼミナールの研究活動]

塙ゼミは、2020年アメリカ大統領選挙の予想マップを作成しました。3週間にわたって全ゼミ生がグループ単位でディスカッションを重ね、最後に塙ゼミとして意見集約し、作成しました。

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Flip StatesまたはSwing Statesと呼ばれる激戦州を中心に、個々人が毎週エビデンスを持ち寄ってディスカッションを繰り返してきました。

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そして塙ゼミ予想結果は、民主党が324人、共和党が214人となり、「民主党バイデンが勝利」というものです。

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11月3日の実際の結果が楽しみです。

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国立大学の研究力、不確実性への公共投資 [教育政策と人的資源]

国立大学の役割や存在意義は大学院を核とする研究力の強さにある。このことは「国立」という設置形態の問題ではなく、有能な研究者をより多く集積する大学院という「機能」の問題である。つまり国立大学の経済効果という課題を考えるうえで、「機能」は中長期的かつ安定的な蓄積により発揮される「人的資源」の形態の一つとして考えるべきである。

「機能」を人的資源の一形態として捉える意味で、国立大学の存在価値をより優れたものにするのが、前回ブログで論じた「ロングテールによる不確実性への公共投資」という考え方である。この点が今日、国立大学の制度改革に最も欠落している。国立大学の制度改革は2004年以後法人化を含めて実施されてきたが、研究という「機能」を人的資源の蓄積として捉えることによって国立大学の研究力を引き出すという考え方が必要であり、国立大学の財政支援の大きな柱とすべきである。研究という「機能」そのものに国立大学の競争力が組み込まれているからである。

新型コロナウィルス。その蔓延と猛威が象徴するグローバルな不確実性の問題解決は、誰が提示するのか。世界が注目している。その答は、少なくとも官僚機構など行政組織ではないことは事実である。大学に代表される研究機能を有する組織のはずである。それもロングテールの視座に立つ研究チームへの期待が寄せられる。研究という「機能」、つまり時間・労力を研究に費やす人々(人的資源)の合理的配置が不確実性の克服に最も資する。新型コロナウィルス危機はこのことを暗示している。不確実性への公共投資は豊かな先進国のいわば特権であり、日本はサイエンスにおける国際的主導力を高める体制を再認識、再構築すべきである。

さて、新型コロナのニュースを横目に、ここ1週間ほどアメリカ名門私立大学で教育データ経済学を専門とする私の友人とメールで情報交換。彼は、日本の国立大学の世界的リーダーシップの可能性は非常に高いという。ただしその最大の条件は国の財政支援、それも安定的なロングテールの考え方から国立大学を支援する仕組みの再構築にあると主張する。アメリカの2年制コミュニティカレッジ(州の財政支援で運営される公立短期大学)の政策に詳しいその友人に、日本の国立大学法人運営費交付金の削減の話をすると、コミュニティカレッジと「立ち位置」が類似しているという。ロングテールの考え方が希薄な上、つねに財政事情を理由にして予算削減対象の矢面に立たされるのがコミュニティカレッジなのだと話す。思わず閉口してしまう指摘である。


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文部科学省の「国立大学法人の戦略的経営実現に向けた検討会」を考える [財政問題と地方分権]

文部科学省は、国立大学の経営改革や財源多様化に関する検討会議「国立大学法人の戦略的経営実現に向けた検討会議」を2020年2月より開催し、3月19日に第2回の会議を終えた。この検討会議は政府の経済財政諮問会議の2019年「骨太の方針」に設置根拠を有し、内閣府の未来投資会議が主導力を発揮している。

国立大学の制度改革や政策形成の重心が文部科学省から近年は内閣府(官邸)にシフトするなか、国立大学の経営的自由度や財源確保の方策が議論されるという「政策力学」には注視すべきである。前回ブログで述べたように、高等教育の経済効果や個人的・財政的な便益はロングテールで捉えてはじめて、その生産性が本質的に評価される。単年度・単眼的な視野から官邸主導で政策立案を急ぎ、予算配分のメリハリと称して新たなルールを適用し、結果的に予算総額を圧縮する手法には「労多くして益少なし」の感をみる。

政府の未来投資会議が担う科学技術・イノベーションをめぐる議論は、まさにロングテール案件の典型である。投資とは、良い意味で「不確実性」の世界だからである。国のイノベーション投資とはまさに不確実性への公共投資であり、国立大学はその不確実性と日々闘いながら研究成果を生みだす拠点である、と再定義すべきである。「不確実性」への公共投資こそ、グローバルな競争力の源泉となり、イノベーションの主導権を握る可能性を大いに秘める。2000年以後グローバル化の進展の中で日本経済が低迷している最大の理由は、そうした主導権を完全に失っていること、つまり不確実性への重層的な公共投資を異様に嫌って国立大学への財政支援を削り落とし、投資効果に対して単眼単層になりすぎていることにある。

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文部科学省「国と国立大学法人の契約関係」(国立大学法人の戦略的経営実現に向けた検討会議(第2回)より)

検討会議の論点の一つ、国と国立大学との契約関係に関する議論は興味深い。仮に、上述した再定義からいえば、従来の大学経営ガバナンス論に立脚した議論では不十分である。むしろ迷走の感さえ抱く。結論からいえば、「イノベーションの不確実性への自立的挑戦」という普遍的なロングテールの中心概念を打ち立て、国と国立大学とが重層的あるいは多様に契約を交わす仕組みが必要である。不確実性への公共投資という再定義によって国立大学レベルでの「自立的挑戦」のあり方は重層的・多種多様になり、国立大学や研究者が意欲や使命に燃える環境を提供できる。なにや「挑戦」という言葉を用いると、無責任な「冒険」であるかのごとく誤解を生むかもしれない。その誤解を解くためにも、国立大学または個々の研究者には地域社会や納税者に対する高い説明力を備えることが前提となろう。文系・理系ともに社会に対する説明力という点で、国立大学は不十分であったかもしれない。

「不確実性への公共投資」という再定義から言えば、東大・京大・東北大等の「指定国立大学」7校に偏在した政策形成や資源配分には矛盾が生じる。不確実性への公共投資の対象とすべきは、基本的に全86校の国立大学は勿論、私学助成金が投じられている私立大学を含む高等教育システム全体である。不確実性のグローバル経済の時代に競争力を維持するには、多様性と重層性を備えた高等教育システムが有用である。有能な研究者は国立にも私立にも在籍している。その意味で国立、私立の設置形態は重要ではない。それは、ハーバード大学やスタンフォード大学など有力な研究大学のほとんどが私立であり、連邦政府から多額の研究費が投じられていることから容易に理解できる。ただし日本の場合、実質的には研究機能を蓄積した「大学院」を設置しているのは国立大学であり、したがって研究力が高いことは事実である。設置形態ではなく、究極的には大学院を研究機能の核としている点に国立大学の存在意義がある。

世界を震撼している新型コロナウィルス。その猛威の克服には「不確実性への公共投資」が急がれる。それはグローバルな競争であり国が国立大学を支援する理由である。ウィルス撲滅のワクチン研究には国の支援と大学の「自立的挑戦」という精神の両輪駆動が必要である。

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