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国立大学の「大学債」を考える① -償還財源- [財政問題と地方分権]

2020年10月、東京大学は国立大学として初となる「大学債」(FSI債)を発行した。発行額200億円、償還期間は40年、利率は0.823%、政府保証は無し、というスキームである。

国立大学が法人化された2004年から16年が経過した。ようやく国立大学が単独で借入れ、市場から資金調達を行う時代に入った。これは国立大学財政史の観点から画期的であると同時に、市場から資金調達を行う以上国立大学自らがリスクを負うことを意味する。ここでは国立大学の「大学債」をテーマに様々な視点やアメリカの事例を引きながら検討してみたい。なおアメリカにおける州立大学の大学債(レベニュー債)は、塙 武郎(2019)アメリカ高等教育財政とレベニュー債  ―イリノイ大学システムを事例に―」を参照されたい。

まず第1回は、「償還財源」について考える。債券発行により借入れを行うと、当然ながら発行体は元利払いを義務付けられ、また発行体すなわち国立大学の財務状況等に裏付けられた信用が重要となる。債券の信用に対する評価は格付会社が行い、投資家をはじめとする証券市場の側がその格付情報をもとに債券購入の是非を最終的に判断する。一般に信用力の低い債券は「ジャンクボンド」と呼ばれ、紙くず(junk)同然と評価される厳しい世界である。公共性を有する国立大学がこうした厳しい証券市場の評価に耐えうる財政力、つまり償還財源の確実性とガバナンス体制を有するかが今後、本格的に問われることになる。

格付会社や市場の側の判断は国立大学の財務状況、すなわち収入と支出の全体構造について分析評価し、特に収入面では個々の収入項目の性質や安定性についてチェックする。とりわけ、どの収入を「償還財源」に位置づけるかが直接的にチェックされる。償還財源は毎年度の予算編成過程において、最優先に返済原資に充てられる財源として縛られるので、一定の確実性と規模が償還財源に求められる。国立大学の経常収入において一定の確実性と規模を有する収入とは何か。この点がポイントになる。

現在、東京大学の大学債(FSI債)の償還財源は、「文部科学省令第 9 条の 4 に定める業務上の余裕金として、運用 を目的とする寄附金、国立大学法人等の有する動産・不動産収入、国立大学法人等の研究成果の活用等に関する業務対価、出資に対する配当金及び有価証券の運用収入など国立大学法人等全体の収入を充てる」としている(東京大学法人(2020)「債券内容説明書」第二部法人情報、14頁より抜粋)。つまり寄付金、資産収入、特許等収入、運用収入の4つの収入を償還財源として明記している。これら4つの収入は国立大学の「主要財源」というよりも「その他収入」と分類される「非主要財源」であり、確実性・安定性の観点からいえば高い信用力を獲得できるものとは言い切れない。むしろ寄付金や資産収入といった非主要財源を償還財源に充てざるをえない事情と現行制度の限界という問題が背景にあるように思われる。

今後こうした「非主要財源」での大学債の発行スキームが前例となれば、財政面で余力や規模を有する大規模研究大学としての国立大学のみが発行可能となることも予想される。大きな前進、画期的な前進といえる東京大学の大学債であるが、地方小規模単科大学に代表される国立大学は同様スキームでの発行はおよそ困難であろう。この点が今後の大きな課題となろう。

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