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アメリカの都市政策と自転車 [都市政策・モビリティ研究]

アメリカの巨大都市ニューヨーク市は「自転車」(Bike)に重きを置いている。「クルマ社会」といわれるアメリカ社会ではおよそ想像できないが、しかし事実である。ニューヨーク市交通局は「CYCLING IN THE CITY; Cycling Trends in NYC」というシリーズ報告書を毎年発表し、市内の自転車の利用状況等について統計データを使いながらわかやすく解説している。

最新の2020年版の報告書によると、2005年から2018年の主要都市における自転車通勤者数(Bicycle Commuters)は、ニューヨーク市が圧倒的首位を走っている。2013年から2018年は35%の増加率で、全米平均16%の2倍以上である。そのほかロサンゼルス市、ポートランド市、シカゴ市、サンフランシスコ市、シアトル市等は特に際立った増加トレンドは見られない。直近ではシカゴ市とポートランド市の微増傾向があり、なかでもポートランド市は人口規模でいえば自転車通勤者数が多いことが注目に値する。

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また同報告書は、ニューヨーク市の中枢「マンハッタン地区」の中心エリアであるミッドタウンに位置する50丁目を定点ポイントとして、そこを南北に通過する自転車台数をカウントした統計データを公表している。平日の朝7時から夜7時まで対象とし、1980年以来ずっと継続している。上記のグラフと整合して、2014年から2019年の5年間の増加率が上がっており、27%増と発表している。

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自転車通勤者の推移は、ニューヨーク市を構成する5地区別でも確認できる。マンハッタン地区(黄色)とブルックリン地区(緑色)が大半を占めており、2018年現在、両者とも2万人強に到達している。マンハッタン地区は2013年以降に増加トレンドがみられる。

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加えて、自転車利用者は、予想以上の広範囲でのモービリティを形成することも報告されている。つまりマンハッタン地区の内部だけでなく、ブルックリン地区とクィーンズ地区とのモービリティ選択に貢献している。マンハッタン地区と隣接2地区とを結ぶQueensboro Bridge(緑色)、Williamsburg Bridge(赤色)、Manhattan Bridge(黄色)、Brooklyn Bridge(水色)の4つの橋の自転車利用者数は、2003年以降に急増している。直近2017年より若干の減少がみられるが、市交通局はこの要因は、City Bike(バイクシェアサービス)の普及とイーストリバーでのフェリー運航開業によるものと分析している。とはいえイーストリバーを通過するバイカーが急増していることは事実である。 

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最後に、自転車利用者の性別でみたデータは、今後の課題を提示している。2018年現在の自転車利用者は7対3で男性が多い。ただし2015年から2018年でみると、女性の利用者は4倍に増加している。またCity Bikeの利用者(年間490万人)の24%、つまり4人に1人が女性であることに言及し、女性利用者の増加の大きな要因であると分析している。なお市交通局の別の報告書によれば自転車利用を消極的に考える最大の理由の一つに「危険」を挙げており、東京都に比べれば圧倒的に自転車専用レーンを整備しているニューヨーク市でも、「危険」を理由に挙げている点は興味深い。

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さらに興味深いのは、自転車利用と教育歴には相関性がみられるという指摘である。そもそも交通モード選択と教育歴における相関性に着眼するという点に、アメリカ的な方法論や公共政策の特徴が出ている。自転車利用者には比較的「大卒以上」が多いと言及している。

新型コロナ時代のリスク回避の移動手段としても、自転車への注目は高まっている。もちろん自転車は移動距離の限界もある。しかし、テレワークの普及や職住接近のまちづくりを推進することで解消される部分もあり、自転車の社会的地位を再評価することは大きな可能性を秘めている。今後日本の立地適正化計画のコンパクト&ネットワークを含め、都市政策に示唆を供するものである。

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