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デトロイト市の財政破綻 その① [財政問題と地方分権]

 2013年12月3日(アメリカ現地時間)は、州(State)が本来もつ権力の大きさを改めて証明する、注目すべき判決が下された日となった。デトロイト市の財政破綻に関する連邦破産法「チャプター9」適用をめぐる一連の動きに、終止符が打たれたからである。
 その注目された連邦破産裁判所(スティーブ・ローズSteve Rhodes判事)による判決は、ミシガン州知事主導によるデトロイト市への「チャプター9」適用申請は妥当(valid)であり、同市の財政破綻はやむを得ない、とするものであった。
 この「ローズ判決」は、少なくとも次の2点について、アメリカ社会、とりわけ州や地方自治体(市、カウンティ、学校区など)財政関係者に大きな影響を与えると考えられる。
 第一は、州政府の創造物(creature)と広く認識されてきた「地方自治体」この場合デトロイト市における「草の根の地方自治」の範囲には一定の制約があり、それが州知事主導による手続きが進められたことに何ら違法性はない、むしろ中長期的にみて健全な措置であるとの判例が提示されたことである。このことは、1875年ミズーリ州で下されたディロン判事による「ディロン原則」を再確認する判決でもあり、州が地方自治体の主張する地方自治のあり方、特に財政規律に関して強権的に介入する最終権力を有しているとの判例を、ミシガン州も踏襲した形となった。
 第二は、スナイダー州知事が、デトロイト市という世界的な産業集積をみる大都市、それもアメリカ自動車産業の繁栄を象徴する大都市が財政破綻の危機に直面した現実に対し、特段の救済措置は打たなかった点である。むしろスナイダー知事は、彼自身が指名した緊急財政管理監ケビン・オー氏を同市に送り込む形で市の財政破綻を積極的に進める行政手法を採用した。この手法は、裁判の争点となっていた市退職者の年金給付の大幅削減を含む市財政再建プログラム案を提示するものであったが故に論争を巻き起こしたことは、既に報道されている通りである。
 逆にいえば、「ディロン原則」以来の判例の蓄積がある一方、州知事主導による行政手法に対して地方自治体レベルでの草の根の地方自治を堅持しようとするパワーが存在していることも、浮き彫りにしたと言って良い。
 実は私自身も、デトロイト市については2010年以後、初等中等教育財政(デトロイト市学校区)の事例研究で調査している。例えば近年では、塙武郎著『アメリカの教育財政』(日本経済評論社、2012年)や、渋谷博史・樋口均・塙武郎編著『アメリカ経済とグローバル化』(学文社、2013年)第2章所収「アメリカ自動車産業の衰退と大量失業問題 :デトロイトの事例」で言及した。アメリカ自身が推進しようとする自由競争や市場経済をベースとする「グローバル化」が、政府部門それも州や地方自治体レベルの地方財政に与える経済的インパクトの大きさに息を飲む思いである。
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