SSブログ

アメリカの学校区と教育自治 [教育政策と人的資源]

以前のブログで、アメリカは「地方自治の百貨店」のような国だと表現しましたが、今回はまさにそれを象徴する分野である教育(義務教育を含む初等中等教育)の分野を紹介します。3月、ワシントンDCに研究調査で出張に行きましたが、その際にワシントンDCに隣接するメリーランド州Prince George's Countyの学校区オフィスにも行きました。

1.jpg
これがその正面玄関。メリーランド州ではCountyが学校区の行政単位となっています。

訪問の目的は、学校区長(superintendent)にお会いして財務部長も交えながら30分ディスカッションすることでした。学校区のオフィスに入ると、その長い廊下一面に、生徒の習熟度テストの成績の時系列グラフが張り出されていたのが印象的。近年アメリカの多くの州は、州内にあるすべての学校区に科目別習熟度テストを実施、報告を義務づけています。メリーランド州は特に教育に力を入れています。そのグラフを横目で見ながら、一番奥にある学校区長オフィスへと、案内されました。その途中、同County教育委員会の本会議場がありました。この本会議場こそ「教育自治」の物質的な姿といえます。ここで決めることが全てであり、連邦や州の上位政府からの関与やコントロールは基本的にはありません。つまり、すべて学校区ごとで自分たちの教育行政を賄うという自立、自生、自治の考えを規範としています。財政については、ある程度、州や連邦からの各種補助金が交付されますが、基本となる財源は学校区内で課税された自主財源(地方財産税)です。

2.jpg
地域住民(教育費を負担する学校区の一般納税者)は誰でも傍聴、質問ができる。委員会はケーブルテレビで放映される。
3.jpg
委員席からプレス席・傍聴席の方に向かって見るとこんな感じ。

「教育自治」といえる根拠に、"Layman system"があります。アメリカの教育委員会は学校区ごとに公選によって召集されたメンバーで構成されます。財政(地方財産税率決定や予算編成)、人事、カリキュラムに至るまですべて教育委員会の承認なくして決まりません。つまり"layman system"(素人による官僚専制に対するチェックアンドバランス)です。地方行政における民主主義の確立は、教育に顕著に見られます。まさに「教育自治」なのです。もちろん、素人だけでは行政は動かせません。ちゃんと事務組織も確立されており、そのトップが今回お会いすることができた、学校区長なのです。

アメリカでは「学校区長」というポストは教育行政のプロフェッションであり、通常、年収10万ドル以上、いわば地方の高級官僚といったところです。ほとんどの方が経済学の博士号やMBAなどの学位を持っています。しかし、やはりその学校区長の権限も教育委員会の承認の上に発揮されるものであり、強権的なものではありません。ここに、アメリカ教育行政の最大の特徴があり、常に進化する仕掛けがあるといえそうです。

nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0