SSブログ

単著 『アメリカの教育財政』を刊行 [著書・論文]

2012年7月25日、単著 『アメリカの教育財政』 を刊行しましたのでご報告します。

hanawatcbook.jpg

 本書は、渋谷博史・東京大学教授が監修する全8巻シリーズ「アメリカの財政と地方分権」の第3巻にあたります。本シリーズ全8巻のうち、第8巻『アメリカの財政民主主義』(渡瀬義男著)と、第5巻『アメリカの医療保障と地域』(櫻井潤著)はすでに発刊されており、本書は、これらに次いでシリーズ3冊目の発行となります。

 また本書は、私が2004年に筑波大学大学院社会科学研究科経済学専攻在籍時に提出した博士学位論文『現代アメリカ高等教育財政の研究』(主査:河野惟隆先生)をベースにして、その後の研究成果をまとめた学術書です。この博士論文では高等教育(大学)に研究対象を絞っていました。

 一方、本書では義務教育を含む初等中等教育に研究対象を大きくシフトし、より草の根的な地方分権の仕組みが体現された初等中等教育の財政システムの基本原則を提示することを中心課題としています。我が国には存在しない、アメリカ地方自治体の草の根の行政単位「学校区」(school district)に注目し、具体的にそれがどのような財政システムを確立し、借入れ(一般財源保証債の発行)を含めた資金ファイナンスを運営しながら、州政府や連邦政府から財政面で自立性を保っているのか、その基本原則を事例を通じて実証的に提示しています。

本書 目次

序 章 本書の課題と分析視角
第1章 シカゴの初等中等教育財政の基本構造
第2章 シカゴ市学校区の資本改善事業と債券発行
第3章 ニューヨークの初等中等教育財政
第4章 ミシシッピ州ジャクソン市学校区の予算編成
第5章 オレゴン州の納税者の反乱と教育財政の自己再編
終 章 今後の課題と展望 

 アメリカ社会では、たんに公選を通じて「教育委員会」(board of education)を組織しただけで地方分権(本書では「分権システム」と表現しています)が成立したとは考えません。本質的には、財政面で「自立」するような、あるいは「規律」を発揮するような財政システムが学校区の側に確立されてはじめて、地方分権が成立したと考えます。

 こうした基本認識のもと、本書では、学校区の上位政府にあたる州政府による教育補助金も詳しく分析しました。学校区の側が自主財源を中心に教育予算を編成するインセンティブを働かせるような州補助金(本書では「州教育均衡交付金」と翻訳しました)の仕組みを明らかにしました。また本書ではこの「州教育均衡交付金」の仕組みに反映されるアメリカ的価値を「最低保障」という概念で説明し、これを重要な基本原則の一つに位置づけています。

 なお本書は、早速2012年度後期の講義で教科書として使用します。本務校では「地方財政」の科目で、武蔵大学では「アメリカ経済」でそれぞれ使用します。こんにち我が国では地方分権に対しては賛否両論があります。本書が、そうした議論の一助になれば幸いです。


nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0