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シリーズ「交通税を考える」(その1) [都市政策・モビリティ研究]

本シリーズ「交通税を考える」は、今後の地域公共交通のあり方をどのように再編すべきかを、地方財政と日米比較の観点から考えてみたい。

交通は、古くて新しい問題である。高速道路・新幹線・空港等への全国的・大規模な交通インフラ整備の時代は一巡した。今後は地域レベルでの交通インフラ整備や財源確保を考える時代である。本シリーズでは、そうした問題意識から地域公共交通、特にそれを支える「交通税」について検討したい。

2022年3月24日、滋賀県の税制審議会が「交通税」を本格的に検討しはじめたのは画期的である。審議会は「地域の公共交通機関を支えるには県民に新たな税負担を求める必要がある」として、「交通税」導入の答申案をまとめた。税金、それも「地方税」と言えば地域住民の反対や反感が予想されるが、しかし行政サービスがタイトに享受できるメリットが説明されれば、反対は軽減されうる。

「交通税」を考えるうえで、示唆に富むのがアメリカの事例である。「クルマ社会」と言われるアメリカでも「交通税」はすでに導入されている。それも半世紀前に遡る1974年に交通税の導入が決定され、今日まで運用されている。

大都市シカゴが典型例である。1974年、シカゴ大都圏を構成する1市6郡で「交通税」導入の是非をめぐる住民投票が実施された。その住民投票の結果が興味深い。都市部のシカゴ市だけが賛成多数となり、ほか郊外6郡はすべてクルマ社会を謳歌する住民が大半のため反対多数となり、都市と郊外の地域対立が露呈する形となった。結果、人口(つまり票数)の多いシカゴ市での賛成票が効いて、過半数ラインを僅差で上回り、「交通税」導入が決定したのである。こうして「交通税」をめぐる見解の相違が浮き彫りになったが、クルマ社会アメリカにとって画期的な進歩であると地元メディアは報じている。

拙稿(2010)で論じたように、注目すべきは「交通税」に反対する理由である。反対多数を占めた郊外6郡の人々はミドル層ないし富裕層であり、豊かで自由なクルマ社会、ライフスタイルを謳歌する人々である。彼らはガソリン税や売上税を多く負担している上に、さらに「交通税」を負担させられることに猛反発したのである。毎日クルマを利用する人間にとって交通税は不公平な税と考えたのも無理はない。

シリーズ・アメリカ・モデル経済社会<br> アメリカ・モデルとグローバル化〈2〉「小さな政府」と民間活用
交通モード選択は元来、自由である。また居住地域、通勤先、ライフスタイル、所得水準等は個人や家庭で異なる。現実にはそれらの諸要素による総合判断によって交通モードが選択されており、その意味で「交通税」導入には強力なコンセンサスを必要とする。問題なのは、クルマ(道路)以外にコストのかかる交通モードとしての電車、バス、路面電車等の多様な選択システムを提供する必要性だけでなく、メリットを住民に説明できるかどうかである。シカゴではその説明(説得)をする材料として交通税の「配分」に関する、ある工夫が講じられたのである。本シリーズ、次回はそのある工夫とは何かを含め、「交通税」について考える。

【参考文献】

・塙武郎(2022)「アメリカの都市郊外化と『交通カルチャー』の変容」、IATSS(国際交通安全学会)編『IATSS Review』第46巻第2号、130―138頁。(全文PDFはこちらへ

・塙武郎(2010)「アメリカ大都市の交通財政 ーニューヨーク・シカゴの事例研究―」(渋谷博史・塙武郎編著『アメリカ・モデルとグローバル化Ⅱ ―「小さな政府」と民間活用―』昭和堂。

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