SSブログ

「バイク&ライド」政策と地域経済 [都市交通]

車社会と思われがちなアメリカ社会であるが、意外にそうではない。全米の主要都市で今、いわゆる「路面電車」の敷設・延伸工事がここ10年間に急速に進んでいる。先日、出張した中西部ウィスコンシン州の主要都市、ミルウォーキーでも路面電車の延伸工事がダウンタウンで進められている現場をみた。


アメリカでの路面電車の急速な整備拡大の背景には、都市政策の転換がある。なかでも注目すべきは「自転車」の積極的な活用である。自転車ごと路面電車に乗ることを想定した「バイク&ライド」政策は、アメリカでも拡大の一途をたどる。

maxbike.jpg

オレゴン州ポートランド市の路面電車、通称「MAX」は、よく知られた先進事例である。日本の研究者もしばしば研究対象としているが、最大の特徴はダウンタウン地区の一部をFarefree Zone(運賃無料区間)に設定している点にある。自家用車の都心部への乗入れを抑制するだけでなく、徒歩と自転車のモービリティを高めることも目的としている。

max.jpg

特に、徒歩や自転車の行動範囲の拡大は多種多様な所得層の、多種多様な個人消費を拡大する。特に時間消費サービスを拡大し、町に活気を与える。多種多様な人々を都心に向かわせる仕組みづくりが地域経済を自立的かつ持続可能にするという基本認識が、そこにある。ポートランド市は1980年代から路面電車を中心とする都市政策を講じてきたが、「バイク&ライド」政策は今日中心的な役割を担っている。

downtown.jpg

地域経済の自立的な成長や持続に資する都市政策が、アメリカ社会で優先される主要な理由は、州・地方財政の分権性にある。都市部に人々を引き寄せ、地域経済の中心機能を維持し、よって都市部の不動産価値を維持することが、地方政府が発行するレベニュー債(TIF債)の債務管理において最重要課題だからである。つまり、冒頭で述べた全米の主要都市で散見される路面電車の整備拡大の背景には、地方財政ファイナンスを活用した都市政策の展開がある。

コメント(0) 

コメント 0

コメントの受付は締め切りました