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映画『デトロイト』 アメリカ最大のダブルパンチ [超大国アメリカの経済社会]

映画「デトロイト ー衝撃の実話」が話題になっている。

この映画は、1960年代のデトロイト市での白人社会と黒人社会の衝突や暴動を軸にして、奴隷制の時代に遡る人種問題の根深さだけでなく、当時の司法権とくに合衆国憲法にもとづく連邦司法権の力がアメリカ社会の現実問題に立ち及ばない矛盾を浮き彫りにしている。

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デトロイト市のダウンタウン再開発地区の中枢「ルネッサンスセンター」ビル。世界最大の自動車メーカーGM(ゼネラル・モーター)の本社が構える。

連邦司法の無力さに加え、貧困・格差問題といった経済面での無力さは、デトロイト暴動の半世紀後の2008年の金融危機で露呈する。デトロイトは司法と経済の両面でダブルパンチをくらった、アメリカ最大の「敗北者」にさえ見える。「モーターシティ」の繁栄の歴史が嘘のようである。

デトロイト地域経済の衰退や貧困問題については、渋谷博史・樋口均・塙武郎編著『アメリカ経済とグローバル化』学文社(2013年)、第2章「自動車産業の衰退と大量失業問題 ーデトロイトの事例」で論じているが、映画への注目を背景に、改めて大都市デトロイトの抱える人種・貧困・格差問題がいかに構造的で根深く解決困難な矛盾を秘めているかを感じる。

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デトロイト市内の黒人貧困街に広がる廃墟。

無数の空き家の放置は既存周辺家屋の市場価額の連鎖的な下落を招く。そして地方財産税の減収と行政サービスの質的低下を引き起こしている。こうした黒人貧困街はデトロイト市全域、つまり都市部に集中している。逆に、通称「8マイル・ロード」より以北、つまり都市の郊外地区は豊かな白人社会が広がっている。これはよくアメリカ社会(特に大都市)にみられる居住地区の人種的分断いわゆるセグリゲーションの現実であり、デトロイトはその代表都市の一つなのである。

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地図中の赤線が白人社会と黒人社会の境界線「8マイル・ロード」。2002年の映画「8 mile」も必見。

デトロイトへは金融危機以前から研究調査で訪問し、ヒアリング調査等を行ってきた。市役所、学校区、NPO、大学、自動車部品メーカー等を訪問した中で一番感じることは、1960年代の司法面での敗北も大きいが、2008年以後の経済面での敗北がデトロイトにとって致命的のようである。金融危機の影響はデトロイト経済に甚大なダメージを与えており、その再生は容易ではない。自動車産業の急速な衰退消滅、人口減少、市の財政破綻、地域コミュニティの住環境悪化といった経済面の問題は、民主的な手続きや制度保障では解決しえない別次元の問題と考えるべきである。

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仮に人種問題における司法面での制度・政策が改善・担保されたとしても、その動きとはおよそ無縁に進展するグローバル化や貧困・格差問題があまりにも地球規模的だからである。一国の政府や自治体、司法のなす措置の範囲をはるかに越えている。

デトロイトが浴びたダブルパンチの敗北経験は、その意味でじつに貴重のように思える。
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